乳腺のう胞について
1. 乳腺のう胞とは?
乳腺のう胞は、乳房の中に液体がたまってできる袋状の構造物です。特に30歳から50歳の女性に多く見られ、特に閉経前やホルモンバランスが変化する時期に発生しやすいです。良性(がんではない)のことがほとんどです。また、乳腺のう胞があるからといって乳がんのリスクが高まるわけではありません。乳腺のう胞は単一の場合もあれば、複数発生することもあります。これらはサイズが様々で、小さなものからピンポン玉ほどの大きさになることもあります。
2. 症状や特徴
乳腺のう胞のほとんどは無症状で、偶然検診で発見されることが多いです。症状がある場合には、しこりを感じることがありますが、これは乳房に液体がたまっているだけで、心配なものではありません。
3. 種類
- 単純のう胞:最も一般的で、心配のないのう胞です。
- 注意が必要なのう胞:のう胞の壁に隆起があったり、1か所に集中してのう胞が集まっている場合、血液が混じった内容物が含まれている場合は、さらに精密検査が必要になることがあります。
4. 診断方法
乳腺のう胞は、マンモグラフィや超音波検査で簡単に診断することができます。また、場合によっては細胞診といった非侵襲的な検査が行われます。これにより、まれに発見される悪性の病変を早期に見つけることができます。
5. 治療や経過観察
ほとんどの乳腺のう胞は治療を必要としませんが、定期的な検診が大切です。特に、乳がんが隠れている可能性が少しでもある場合には、専門医による診断と定期的なフォローアップが重要です。
6. 乳がんとの関連
乳腺のう胞自体は乳がんになることはありませんが、悪性の病変がまれに隠れていることがあるため、早期発見のためにも定期的な検診を受けることが大切です。乳がんは早期に見つけることが最も効果的な対策です。
参考文献)
- Breast J. 2012 Sep;18(5):443-52
- Lancet. 1999 May 22;353(9166):1742-5.
線維腺腫について
1. 線維腺腫とは?
線維腺腫は、若い女性に多く見られる良性の乳房腫瘍です。20歳から30歳の女性の約25%に見られる最も一般的な乳房のしこりで、がんではありません。
2. 症状や特徴
無症状のことが多いですが、触れるとしこりが硬く、押すと動くように感じることがあります。しこりは単発(1つだけ)の場合が多いですが、約20%の人では複数のしこり(多発性)ができます。ホルモンの影響を受けやすく、月経周期、妊娠、授乳中には大きさや痛みが変化することがあります。閉経後には、ホルモンの減少に伴ってしこりが縮小し、時には石灰化(硬くなる)することがあります。
3. 診断方法
線維腺腫は、超音波検査やマンモグラフィである程度診断できますが、場合によっては他の乳房の腫瘍と区別がつきにくいことがあります。特に以下の腫瘍と区別する必要があります。
- 粘液がん
- Basal-like乳がん
- 葉状腫瘍
これらの腫瘍と区別するために、場合によっては生検(針で細胞を採取して調べる検査)が必要になることもあります。
4. 治療や経過観察
線維腺腫自体はがんではなく、通常は治療を必要としません。小さいしこりであれば、定期的に経過観察を行うことが一般的です。
閉経前では、半年以内に20%程度の大きさの変化が許容されますが、急激な大きさの変化がある場合には再評価が必要です。場合によっては手術が必要です。あるいは生検検査で線維腺腫と確定できない場合や、症状があって不安な場合などは手術することもあります。
5. がんとの関連
線維腺腫自体が乳がんのリスクになるかどうかはっきりしていませんが、乳がんの家族歴がある場合には注意が必要です。心配な場合は、専門医の診察や定期的な検診を受けることをおすすめします。
参考文献)
- The Breast. 2003; 12: 302-307.
- Breast J. 2020 Jun;26(6):1216-1220.
- Br J Radiol. 2023 Feb;96(1142):20220078.
乳管内乳頭腫について
1. 乳管内乳頭腫とは?
乳管内乳頭腫は、乳がんではない良性の腫瘍です。乳管の内側でできる小さなできもので、35歳から55歳くらいの女性に多く見られます。
2. どのように見つかるのか?
多くの場合、症状がなく、乳がん検診で偶然発見されることが多いです。ただし、一部の方では以下のような症状が現れることがあります:
- 血が混じった乳頭分泌(乳頭から血が出ること)
- しこりを感じる(しこりを触れることがある)
3. 診断方法
通常、超音波検査(エコー)で腫瘍が見つかります。しかし、確実に診断するためには、針生検(針を使って組織の一部を採取する検査)が必要なこともあります。
4. 治療や経過観察
- 外科的切除: 腫瘍が大きくなる、症状が続く場合には腫瘍の摘出手術を行うことがあります。
- 経過観察: 症状が軽度で、腫瘍が小さい場合は、定期的な診察で状態を確認することが一般的です。ただし、針生検で乳管内乳頭腫と診断されても、約1%の確率でがんが隠れていることがあります。また、生検検査で異型細胞が見つかった場合は、30~40%の確率でがんになる可能性があると言われています。そのため、定期的な検診が重要です。
5. まとめ
乳管内乳頭腫は通常は安心できる腫瘍ですが、がんのリスクがわずかにあるため、専門医の判断のもとでしっかりと経過を見守ることが大切です。
参考文献)
- J Surg Oncol. 2024 May;129(6):1025-1033.
- Phenomics. 2023 Feb 14;3(2):190-203.
乳腺炎について
乳腺炎は、乳房に炎症が起こる病気で、「授乳期乳腺炎」と「非授乳期乳腺炎」に分けられます。症状が乳がんと似ていることもあるため、正しく診断することがとても大切です。当院では乳腺を専門とする医師が診療を行い、幅広い乳房の病気に対応しています。
1. 授乳期乳腺炎(Lactational Mastitis)
授乳中にもっともよくみられる乳腺炎です。授乳の間隔が空いたり、乳頭に小さな傷ができたりして細菌が入り込むことが原因のひとつです。ただし、細菌感染がなくても母乳が溜まって炎症を起こす場合があります
主な症状
- 片側の乳房の痛み、赤み、腫れ、熱っぽさ、しこり
- 発熱、悪寒、全身のだるさ
- 進行すると膿がたまることもあります
治療について
軽い場合は、安静・水分補給・授乳や搾乳の工夫・痛み止めなどで改善を目指します。強く押すマッサージや過度な搾乳は逆効果になるため注意が必要です。改善しない場合や症状が強い場合には抗菌薬を使い、膿がたまっていれば超音波で確認しながら針で抜いたり、切開して出す処置を行います。授乳はできるだけ続けられるようにサポートします。
2. 乳輪下膿瘍(Periareolar Abscess)
授乳と関係なく、乳輪のまわりに膿がたまる病気です。若い女性や喫煙されている方、陥没乳頭の方に多く、乳管の詰まりが原因とされています。
主な症状
- 乳輪のまわりの赤み・腫れ・強い痛み
- 膿が出ることがあります
治療について
抗菌薬や切開排膿で対応しますが、再発しやすいのが特徴です。繰り返す場合には、陥没乳頭の手術を含めた根本的な治療を検討することもあります。当院では形成外科専門医とも連携して治療を行っています。また、この病気は炎症性乳がんと似た症状を示すことがあるため、慎重に診断を進めます。
3. 肉芽腫性乳腺炎(Idiopathic Granulomatous Mastitis, IGM)
比較的まれな病気で、出産後数年以内の女性に起こりやすいとされています。原因ははっきりしていませんが、体の免疫反応や特定の細菌が関わっている可能性が報告されています。
主な症状
- 乳房のしこり、赤み、腫れ、膿がたまる
- 皮膚にただれや潰瘍ができる、乳頭が陥没する
- 腋の下のリンパ節が腫れる
治療について
画像だけでは診断が難しいため、生検(組織をとって顕微鏡で確認する検査)が必要になることがあります。治療はステロイドによる炎症のコントロール、膿の処置、病変部の切除などを組み合わせます。再発することもあるため、長く経過をみていくことが大切です。
当院の特徴
当院では、授乳中の方からそうでない方まで、あらゆる乳腺炎に対応しています。
- 授乳期乳腺炎:保存的治療から抗菌薬、膿の処置まで一貫して対応
- 乳輪下膿瘍:再発予防を含め、形成外科と連携した手術も検討
- 肉芽腫性乳腺炎:生検で確実に診断し、再発をふまえた長期的な管理
乳腺炎と乳がんは症状が似ることもあります。患者さんが不安を抱えたまま過ごさないように、正確な診断と適切な治療を心がけています。乳房に気になる症状がある方は、どうぞご相談ください。
参考文献
- JAMA. 2023 Jan 26;329(7):588-589.
- Surg Clin North Am. 2022 Oct;102(5):761-778.
- Cureus. 2024 Dec;16(12):e75733.
- Mayo Clinic. Mastitis. Available from: https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/mastitis/symptoms-causes/syc-20374829
- Cleveland Clinic. Mastitis. Available from: https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/15613-mastitis
- NHS. Mastitis. Available from: https://www.nhs.uk/conditions/mastitis/
