乳がんについて

乳がんの増加

年々、日本でも乳がん患者が増加しています。毎年約10万人近くが乳がんと診断され、約1万5千人が乳がんで亡くなっています。部位別に見ると、乳がんは女性のがんで最も多く、特に40代で急増し、50代でいったん落ち着くものの、60代で再び増加します。詳細は『国立がん研究センター・がん情報サービス』をご参照ください。

乳がんの症状

次のような症状がある場合は、早めの受診をお勧めします。

  • しこりがある
  • 乳房が痛む、張る
  • 乳頭が変形した、または液が出る
  • 乳房の大きさに左右差がある

乳がんの非浸潤、浸潤について

乳がんは乳管上皮から発生し、初めは乳管内に留まっています(非浸潤癌)が、徐々に伸展していくと基底膜を壊して周囲の間質に浸潤します(浸潤癌)。周囲に浸潤すると、間質にある血管やリンパ管に浸潤し、全身に転移しやすくなります。

乳がんのサブタイプについて

乳がん細胞に発現するエストロゲンレセプター(ER)ハーツー(HER2)によって分類されます。サブタイプによってどの薬物療法を使用するか決まります。 図

サブタイプ 治療法
ER+/HER2+ Luminal HER2 抗がん剤+抗HER2+ホルモン剤
ER+/HER2- Luminal ホルモン剤(+抗がん剤)
ER-/HER2+ HER2 抗がん剤+抗HER2
ER-/HER2- Triple negative 抗がん剤(+免疫チェックポイント阻害剤)

乳がんの手術

乳がん手術にはいくつかの方法があり、がんの進行度や広がり、患者様の希望に応じて選択されます。以下は主な手術方法です。

1. 乳房温存手術(部分切除・腫瘍摘出術)

乳房の一部とがん周囲の健康な組織のみを取り除く手術です。早期の乳がんに適しており、乳房全体を残すことができます。通常、手術後には再発を防ぐために放射線治療を行います。

メリット
  • 乳頭乳輪および乳房の一部を温存でき、外見の変化が少ない
  • 放射線治療により再発リスクが軽減される
デメリット
  • 腫瘍の取り残しがある場合、再手術が必要
  • 放射線治療が必要
  • 局所再発あるいは新規病変出現の可能性が残る

2.乳房全切除術(乳房全摘術)

がんが広範囲に広がっている場合や再発リスクが高い場合、乳房全体を取り除く手術です。

メリット
  • 腫瘍の取り残しがほぼない
  • 基本的には放射線治療が不要
デメリット
  • 乳房の外見を失うため、整容性の問題が生じる

3. リンパ節の手術

がんがリンパ節に広がっているかどうかを確認するため、腋窩(脇の下)のリンパ節を取り除きます。

  • センチネルリンパ節生検:最初にがんが広がる可能性があるリンパ節を数個取り除き、検査します。
  • 腋窩リンパ節郭清:がんがリンパ節に広がっている場合、追加のリンパ節を取り除き、再発リスクを減らします。ただし、上腕リンパ浮腫のリスクがあります。

4. 乳房再建手術

乳房切除後に、乳房の形を再建する手術です。再建にはいくつかの方法があり、患者様の体の状況や希望に応じて選べます。

乳房再建の方法
  • 人工物による再建:エキスパンダーで乳房を膨らませ、後日インプラントを入れます。手術時間が短く、回復が早いのが特徴です。基本的には2回の手術が必要です。
  • 自家組織を使った再建:自分の体の他の部位から皮膚や筋肉を移植し、自然な外観に近い乳房を再建します。手術は複雑で回復に時間がかかることがあります。

乳がんの薬物療法

乳がんの薬物療法は、年齢、ステージ、がんのサブタイプなどに基づいて決定されます。

  1. ホルモン療法
    患者様の閉経状況に応じて、以下の治療薬を使用します。
    • 閉経前: タモキシフェン、リュープリン
    • 閉経後: アロマターゼ阻害剤
  2. 抗がん剤治療
    アンスラサイクリン系やタキサン系の抗がん剤を使用し、再発リスクが高い場合に行います。最近は経口5FU(カペシタビン、TS-1®)、CDK4/6阻害剤を使用することもあります。
  3. 抗HER2薬
    HER2陽性の乳がんに対しては、ペルツズマブやトラスツズマブなどの薬剤を使用します。

乳がん検診

当クリニックでは、さいたま市の乳がん検診および自費検診を行っています。

さいたま市乳がん検診
  • 対象者: さいたま市在住の40歳以上の女性
  • 検診内容: 視触診およびマンモグラフィ
  • 頻度: 2年に1回
自費による乳がん検診

自費検診は症状がない方でも早期発見を目的に行っています。以下のような方に特にお勧めです。

  • 家族に乳がんや卵巣がん、膵がんの既往がある
  • ホルモン補充療法を受けている
  • 肥満や糖尿病がある
  • ご自身に卵巣がんや膵がんの既往がある
検診内容
  • 視触診
  • 乳房超音波検査
  • マンモグラフィ(超音波検査のみも可能)

検査結果は当日中に説明いたしますので、安心して検査を受けていただけます。
さいたま市の乳がん検診は、二次読影があるため、後日結果をご説明します。
定期的な乳がん検診は、早期発見と安心につながります。気になる症状がある場合や、定期的な検診をご希望の方は、当クリニックへご相談ください。

高濃度乳房とは?乳がんリスクと検診の重要性

高濃度乳房(デンスブレスト)は、乳腺の割合が高く、脂肪が少ない乳房のことを指します。
マンモグラフィでは乳腺は白く、脂肪は黒く映ります。乳腺が多い「高濃度乳房(デンスブレスト)」の場合、画像が白っぽくなり、同じく白く映る乳がんが見つかりにくくなることがあります。
さいたま市ホームページ»

また、研究によると高濃度乳房の方は乳がんの発症リスクが1.2〜2倍に上昇すると報告されています(J Natl Cancer Inst Cancer Spectr, 2024)。
特に、閉経前の女性やホルモンの影響を受けやすい方では、リスクがより高まる可能性があります。

クリニックでは、高濃度乳房の方に乳腺超音波検査を推奨しています。

マンモグラフィだけでは高濃度乳房の乳がんを見逃す可能性があるため、乳腺超音波(エコー)検査を併用することで、より正確な診断が可能になります。

  • 放射線被曝がない → 何度でも受けられる
  • 痛みが少ない → リラックスして検査可能

保険適用・自費診療について

  • 乳房のしこり・痛み・違和感・乳頭分泌などの症状がある場合は保険適用
  • 症状がない場合は、自費診療(検診としての受診)

ブレスト・アウェアネス(乳房の健康意識)を高めましょう

日頃から乳房の状態を知り、定期的な検診を受けることが大切です。
当クリニックでは、高濃度乳房の方に適した検査を提供しています。

「自分は大丈夫」と思わずに、ぜひ一度ご相談ください。

乳がんの遺伝について

乳がんの約5~10%は、遺伝的な要因が関係していると考えられています。
その中でも BRCA1/2遺伝子 に病的バリアント(変異)がある場合、乳がんや卵巣がんの発症リスクが高くなります。
この遺伝的な特徴を持つ病気を 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)と呼びます。
下記をご参照ください。

家族に乳がんの方がいる方へ ~BRCA遺伝学的検査と乳がん予防~

詳細はこちら»

遺伝性乳がんと診断されている方、あるいは既往歴や家族歴などから遺伝性乳がんが強く疑われる場合、クリニックでは以下の検査を推奨しています。

乳がん検診を始める目安
  • 18歳から:毎月 乳房自己検診
  • 25歳から:半年~1年に1回 医師による乳房診察または乳房超音波
  • 25~29歳:1年に1回 乳房造影MRI(または乳房超音波検査)
  • 30~75歳:1年に1回 乳房造影MRI とマンモグラフィ(必要に応じて乳房超音波検査)
  • 75歳以上:個別に検討

・当院ではBRCA1/2遺伝子変異検査を行っておりません。
・乳房造影MRI検査およびMRIガイド下生検は連携先の病院へご紹介となります。
ご不明な点がございましたらお気軽にご相談ください